Higher Than The Sun

ウィントン・マルサリスという高名なジャズ・ミュージシャンがいる。彼が練習の注意事項としてまとめたのが「練習12ヵ条」だ。

1.助言を求める (Seek private instruction)
2.予定表を作る (Make a schedule)
3.目標を立てる (Set goals)
4.集中する (Concentrate)
5.あせらずに、ゆっくり練習 (Relax and practice slowly)
6.苦手な練習を重点的にする (Practice hard parts longer)
7.気持ちをこめる (Play with expression)
8.失敗から学ぶ (Learn from your mistakes)
9.ひけらかさない (Don't show off)
10.自分で考える (Think for yourself)
11.楽観的になる (Be optimistic)
12.共通点に注目する (Look for connections)

楽器のみならず、あらゆる事柄の基礎練習に通じる内容であり、マントラとして唱えるに値する内容である。

おもしろいのはここからで、クラシック畑出身のマルサリスのプレイは、こと日本において評価が低い。いわく、スリリングじゃない、うまけりゃいいってものではない…。村上春樹もウィントンの演奏は退屈だと自著に記している。

熱心な練習をし、丁寧な演奏をしても、聴衆の心を摑めないこともある。あるいはそこには創造性や反抗心の欠如が関わっているのかも知れない。マルサリスよりも演奏が下手なプレイヤーのほうが観客を引き込み、熱狂させることもあるだろう。この事実は非常に示唆に富み、個人の力ではどうしようもないものがあることを物語っている。

翻って我々の卑近な状況にこれを当て嵌めてみるに、高みへ登るためには個人の努力ではどうしようもない領域があり、我々はそれに気づかず(あるいは気づかないふりをして)陥穽に陥ってしまう。到達を阻む断絶をあるいは才能の有無と呼ぶのかも知れない。どこで諦めるか、見切るポイントを想定しておくのが身の程を弁えるということなのかも知れないが、その諦観が自身の成長を阻む要因になる。このジレンマに、我々はもがき、苦しむのだ。


参考:
ウィントン・マルサリスの練習方法(訳) | Tenpiece Brass ONELINEoneline.tokyo